株式会社ダイナックス 代表取締役社長
伊藤 和弘さん
千歳市に本社を構えるダイナックスは、世界中に顧客を持つグローバルな自動車部品メーカーだ。研究・開発から製造、販売まで自社で一貫対応しており、クラッチディスクを中心とする多彩な製品群は国際的にも高い評価を受けている。社長の伊藤氏は、自動車部品製造で培った高度な技術と社員の自由なアイデアを融合させ、まったく新たなものづくりの可能性を追求している。
弊社は、AT自動車に搭載されているオートマチックトランスミッションの中に入っているクラッチディスクおよびクラッチバックアッセンブリと、建設機械用のクラッチディスク、それからブレーキディスクの開発・製造・販売を手掛けている企業です。
弊社のクラッチに使われている摩擦材、これが弊社の強みです。アドバンテージとしては摩擦特性が優れていることで、お客様の要求に応じた製品がご提供できています。もう1つは耐熱性です。クラッチは高速回転しているので、摩擦熱で非常に高温になります。この温度に対しての耐熱性があるということですね。このあたりが大きな強みです。
北海道という土地を選んだ理由としては、広大な土地があること、その土地が安価であったことです。あとは、本州の自動車メーカーに納入するので、製品の出荷や材料の入荷で利用する港や空港が近くにあることが、千歳に進出した大きな理由です。また、近隣の大学に優秀な人材がいるということも理由の1つです。実は、弊社が進出する前から北海道には国内大手の自動車部品メーカーが進出していて、ここがエンジンとトランスミッションの組み立てをするという話が最初にあり、我々の親会社が事前にこの千歳に土地を購入していたということも北海道に進出したきっかけの1つです。
北海道の人たちの気質が非常に温厚であるということですね。我々が新しいものを取り入れることによって、北海道の人たちの長所を活かしてもらえると考えました。
やはり広大な土地ということですね。もう1つは拡張性があるということです。我々もその拡張性のおかげで、技術力やモノづくりを通じて海外に展開できたということで、千歳発のグローバル企業に成長できたと感じています。現在、海外との取引は、アメリカ、ヨーロッパ、中国と、ほぼ全世界にわたっています。
現在も、新しい電動化の開発にあたって北海道大学との共同研究を進めています。北海道大学の卒業生も入社してくれて、開発部門を中心に、製造部門や管理部門でも活躍しています。また、北海道大学以外でもインターンシップなどに参加する学生が増えています。北海道で世界市場に向けた自動車部品を作っているということもあり、企業としての知名度もそれなりにありますので、自動車部品に興味がある学生にとっては魅力的な会社の1つに数えられていると思っています。
北海道にも優秀な大学がありますが、学生はほとんど本州に就職してしまうというのが現状です。優秀な学生が北海道に留まるということが非常に少ないというところが、ひとつの懸念ではないでしょうか。
北海道内でグローバルに展開している企業が少ないということもあり、ダイナックスで働くと当然ながら海外での経験ができるということが1つ。あとは、能力さえあれば、開発分野だけではなく自分がやりたいことが仕事としてできるというところ、これが弊社のアピールポイントです。
これから新しい自動車市場は、EVやハイブリッド、電動化に向かっています。日本はもちろん、欧州、中国、アメリカといった分野でEV用のクラッチのビジネスを獲得するということが1つです。それから、次世代の電動化商品ということで、EV用のインホイールモーター、インバーターをビジネスとして捉えています。言うなればインバーターの開発を進めることで、単品ではなく機能を売り込んでいくという考えを持っています。もう1つは、カーボンニュートラルの実現です。2050年に向けて、各自動車メーカーは開発を進めていますが、弊社では小型用の風力発電機の開発を行っていますので、これを今後、地域の再生可能エネルギーとして推進していきたいと考えています。開発した小型発電機を、我々で販売もしていくというプランを進めているところです。最後は、未来商品化ということで、これは自動車に特化しないビジネスです。社内に、従業員から自由に自分たちが実現したい未来商品を募って、「夢創造プロジェクト」というプロジェクトを組んで進めています。
1つは農業ミックスです。農業と企業が一体となって、新たな商品化はできないかということで、地域から自治体を含めて取り組んでいます。そのほか、子育て世代をターゲットにした、可変式の哺乳瓶キャップも考えています。食の部門については、我々には摩擦材という紙の技術の経験が豊富にあります。この特殊紙にスパイスを滲み込ませた「スパイスシート」という味付け用のシートを検討しています。どれがビジネスになるかはまだわかりませんが、これらの多様な分野の商品開発を通して、まったく新しい将来の未来商品として手がけていきたいと考えています。
夢創造プロジェクト以外にも、いろいろな部品を購入しているサプライヤーや協力メーカーと共同で、新しいものづくりのプロジェクトを進めています。今のところ5社ほどが一緒になって、お互いの得意分野を織り交ぜながら、新しい商品づくりに取り組んでいます。このように、部品メーカーとの共同開発が活発にできればと考えています。
プロフィール紹介
株式会社ダイナックス 代表取締役社長
伊藤 和弘さん