Interview

ウイスキーの本場に
限りなく近い環境は、
北海道にしかなかった。

堅展実業株式会社 代表取締役社長

樋田 恵一さん

食品原材料の輸入や酒類の輸出を手掛ける堅展実業が、厚岸町でウイスキーづくりをスタートしたのは2016年のこと。ウイスキーの本場として知られるスコットランドのアイラ島とよく似た風土の中、伝統的な製法を守って造られるウイスキーは、国内外で高い評価を受けている。社長の樋田氏が目指しているのは、圧倒的な大自然の恵みを生かした、世界の銘酒と並び立つウイスキーだ。

  • 本社所在地
    東京都千代田区内幸町1丁目1番1号
  • 道内所在地
    北海道厚岸郡厚岸町宮園4丁目109-2
  • 企業サイトURL
    http://akkeshi-distillery.com/
  • 事業内容
    ウィスキーの製造・販売

ー事業内容について教えてください。

弊社は食品の原材料の輸入の卸をしている会社です。海外からいろいろな食品の原材料を輸入して、それを国内のメーカーさんに卸すような仕事をしています。

ー厚岸にウイスキーの蒸溜所を作るきっかけは?

本業は輸入食品の原材料の輸入ですが、これからは新しい事業展開も必要ではないかと考えたのがきっかけです。いくつか事業を構想する中で、自分自身も以前から好きだったウイスキー造りにチャレンジしたいと思い、北海道で事業を始めることになりました。弊社の創業者である父が、北海道で50年以上前から植林活動をしているという縁もありました。

ー北海道の中で厚岸を選んだポイントは?

やはり自然環境ですね。ウイスキーの本場・スコットランドのアイラ島のウイスキーが個人的に好きでして。非常に自然豊かで、湿原に囲まれた島です。同じようにウイスキー造りができる場所はどこかと考えたときに、日本で探すとなると北海道、それも道東地域しかないということがわかりまして。どうせなら本場に近い環境で造ろうということで、ウイスキーの製造場所として厚岸町を選びました。もちろん自然環境も大切ですが、地元の協力もなければ事業は成功しません。そんな中で見つけた厚岸町の方々と話をして、非常に良い感触が得られたので決めたというわけです。

ー目標はアイラウイスキーのようなウイスキーですか?

アイラウイスキーは好きですが、それとまったく同じものを造るということではなくて、自然環境を含め、北海道の厚岸町でしかできないウイスキーというのを目指しています。出来たウイスキーは、アイラウイスキーと同じようにおいしいと言っていただくこともありますし、アイラ島のウイスキーとはまた違った良さがあるという評価をいただくこともあります。そういう声を聞いたときは非常に嬉しいですね。

ー厚岸の牡蠣や海の幸との相性はいかがですか?

あくまでも個人的な意見ですが、やはり相性は抜群だと思います。厚岸の牡蠣は、厚岸の山に降った雨が河川を流れて厚岸湾に至った水で育つわけですが、ウイスキーも厚岸に降った雨を仕込み水にして造っています。同じ水で育った牡蠣とウイスキーですから、相性がいいのではないでしょうか。

ー厚岸の道の駅でも味わうことができるそうですが?

厚岸の道の駅の「コンキリエ」にあるオイスターバールで、厚岸産の生牡蠣にウイスキーを垂らして食べるセットがあります。あれはアイラ島の食べ方なんです。漁師がウイスキーを飲もうとして、グラスがないからカキの殻で飲んだら美味しかった、というのが始まりとも言われていますけど。厚岸の牡蠣の殻は深いので、底に海水が溜まっていて、ちょうどウイスキーの海水割りになるんですよ。それが絶妙にマッチして美味しいですね。

ー同じ製法でも土地によって味わいは変わりますか?

厚岸蒸溜所を作る前の試験熟成でもわかったんですが、本州で同じ日に作ったウイスキーを、本州で貯蔵するのと厚岸で貯蔵するのとでは、1年も経つと全く違う味になってきます。ウイスキーは樽を介して呼吸をしているので、熟成する場所によってまったく違う味わいになるのがウイスキーの魅力です。厚岸町は寒暖の差が激しいので熟成も早く進みます。厚岸ならではのウイスキーになることは間違いありません。

ーウイスキーに「厚岸」の名前を出すメリットは?

「厚岸」と書いて「あっけし」とはなかなか読めません。北海道以外の方は初めて耳にするような地名ですが、ハッと頭のどこかに残るような響きがありますし、一度見たら忘れないと思います。また、海外の方からすると、北海道の地名は発音しやすいということがあるようです。そういった意味で、手に取った方、飲まれた方の目や耳に残るので、厚岸という名前はブランディングに非常に寄与していると思います。

ーアクセスの面ではいかがですか?

コロナ以前は、多い時は毎週、少なくとも週に2回ぐらいのペースで東京と厚岸の間を往復していました。釧路空港からは1時間ぐらいで、朝の便で釧路に着いて当日のうちに東京に帰るというようなこともやっていました。慣れてしまえば距離も時間も苦になりません。

ー今後の展開やビジョンを教えてください。

今までは海外の輸入麦芽を多く使用していましたが、なるべくその割合を北海道産に切り替えていきたいと考えています。その土地の原材料を生かすというのもウイスキー造りの醍醐味なので、道産原材料でのウイスキー造りにはこだわりたいですね。あと数年のうちにはすべての原材料を厚岸産にして、大麦も厚岸で作って、水はもちろん厚岸の水で、厚岸の森のミズナラ材を使って造る、厚岸オールスターのようなウイスキーが造りたいです。

ー世界への進出などは考えていますか?

地元の麦を使うというのはどこでもできますが、地元の泥炭を使えるのは北海道ならではです。アイラ島も島の泥炭を使って、ものすごく特徴のある、燻したような香りを出していますが、北海道の泥炭を使うとやはり北海道独自の香りが得られます。そんなウイスキーを、地元はもちろん、日本全国、そして外国に至るまで発信してみたいですね。

Profile

堅展実業株式会社 代表取締役社長

樋田 恵一さん

1967年、千葉県松戸市生まれ。
1989年、慶応大経済学部を卒業後、 住友信託銀行(現三井住友信託銀行)入行。
1993年、父が創業した堅展実業に入社、食品原材料の開発・輸入業務を経て、1997年から現職。
2016年11月、道東初の蒸溜所となる堅展実業厚岸蒸溜所を設立し、ウイスキーの生産を開始。
2018年2月、初商品となる「厚岸 NEW BORN FOUNDATIONS series」を発売。
2020年2月、初のシングルモルトウイスキーとなる「厚岸ウイスキー サロルンカムイ」を発売。
2020年10月、初の700mlオリジナルフルボトルとして二十四節気シリーズ「厚岸シングルモルトウイスキー寒露」を発売。
以降、四季折々で二十四節気シリーズのリリースを続けている。
なお、堅展実業株式会社は菓子などの食品原材料を輸入し、大手菓子メーカー、デザートメーカー等に販売するのが主力事業。

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